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FDはどこまでカバーする活動なのだろうか。この物語は、FDの素人を自認する鈴木が「日本のFDの現状について話してほしい」という招聘を受けて基調講演のために中国での国際会議に行った時に感じたことを綴った紀行文である。まずは、そのとき何が起きたのか、当時の中国の状況を想像しながら読んでいただきたい。その次に、国立教育政策研究所が公刊した「FDマップ」を手掛かりに、FDがカバーする範囲について、改めて考えてみよう。FDってどこまでカバーするのか、そしてFDを受講する者ではなく、FDを担当する者には何がどこまで求められるのか。そんなことが議論できればと願っている。
必読文献(といっても紀行文ですが・・・)
- 鈴木克明(2013)【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(46)~中国における大学教員開発:国際FDカンファレンス2013参加報告~ IDポータル(熊本大学)
FDマップ:FDの全体像を示す枠組み
国立教育政策研究所は,愛媛大学などでのワーク ショップの実績を踏まえて,「大学・短大で FD に携 わる人のための FD マップと利用ガイドライン」を公 表した(川島 2009).FD を「大学教育に携わる 者としての教員のキャリア開発を目的に設計されたプ ログラム」と捉え,ミクロ(個々の教員による授業・ 教授法の開発)・ミドル(教務委員によるカリキュラ ム・プログラムの開発)・マクロ(管理者による組織の 教育環境・教育制度の開発)の3つのレベルにⅠ:導入 (気づく・わかる)・Ⅱ:基本(実践できる)・Ⅲ:応用(開発・報告できる)・Ⅳ:支援(教えられる)の 4 フェーズで構成する二次元の FD マップの枠組みを 提案した(図参照).
図:FDプログラムとして考えられる活動の全体像(川島 2009, p. 3の図を再掲)
FD 担当者の主たる業務が他教員・教務委員・管理 者の「Ⅳ:支援」であると考えた場合,FD マップで の目標は,各レベル共通に以下の3つになっている. すなわち,①他の教員(もしくは教務委員・管理者) を支援することができる,②所属機関に適した FD プ ログラムを企画・運営することができる,③大学教育 関係の国内外の動向(特に,授業改善について)につ いて説明することができる. FD 担当者が「Ⅳ:支援(教えられる)」を実行するためには自ら がまず,導入・基本・応用のレベルを習得する必要が あるとの考えるのが自然であろう.そうなると,全レベルで示されている目標 を自分自身の授業で達成した経験が求められる.そこには,ニーズ把握・ 目標設定・運営計画・設計開発・実施と評価など,授業設計サ イクル(IDの基本)のすべてをカバーする目標が示されている.
このことは、FD 担当者は授業改善についての自分自身の経験「II.基本(実践できる)」とその省察「III.応用(開発・報告できる)」を踏まえて、他者を支援できるようになる道筋が描かれている、とみなすこともできる。他方で、自分が経験してきたことを他者に教えるためには、経験知を理論知を介して相対化すること(つまりはメタ認知)が必要であるとも言われている。経験知だけではなく,ID の理論知を踏まえて解釈することで初めて、他領域の 教育内容についても積極的に提言・関与できると見ることもできる(鈴木 2012). 後者の立場からは、FD研修受講者の目指す「II.基本(実践できる)」や「III.応用(開発・報告できる)」と、FD担当者が目指す「Ⅳ:支援(教えられる)」とは非連続であり、理論知を介したメタ認知の習得が不可欠になると考えることになるが、どうだろうか。つまり、FDがカバーする範囲は「III.応用(開発・報告できる)」までであり、「Ⅳ:支援(教えられる)」を目指すFD担当者向けの研修とは別だ、と考えるのが妥当なのだろうか。
参考文献
- 川島啓二(代表)(2009)大学・短大で FD に携わる人のため の FD マップと利用ガイドライン.国立教育政策研究所
- 鈴木克明(2012)「大学における教育方法の改善・開発[総説]」日本教育工学会論文集、36(3)(特集号:大学教育の改善・FD):171-179