トピックアウトライン
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我が国における大学における組織的な授業改善への動きは、大学の自己点検・評価の手法として導入が進んだ学生による授業評価アンケートの実施を中心に展開し、FDが2008年に義務化されたこととも相まって注目が集まった。文部科学省(2009)の調査によれば、FD の平成19年度実施率は約 90%(664 大学)であった。しかし、実施率は高いものの具体的な内容 は依然として「教育方法改善のための講演会の開催」(446 大学)がトップであり、他の内容(新任教員とそれ以外のための研修会、教員相互の授業参観、授業検討会の開催:いずれも 300大学前後)を大きく上回 っていた(鈴木 2012)。
その後の10年間で、いずれも 300大学前後の実施にとどまっていた新任教員とそれ以外のための研修会や教員相互の授業参観、授業検討会の開催は全体の50%にあたる400大学にまでは拡大したが、「教育方法改善のための講演会の開催」(491 大学)が依然としてトップであり続けている(文科省 2020)。文科省は、調査を通じてナンバリングやGAP制、カリキュラムマップなどの施策の普及を図ったり、FD活動の出席率を調査することでFD活動の浸透を後押ししようとしてきている。その結果、例えば、FDとしてアクティブ・ラーニングを推進するためのワークショップまたは授業検討会を行っている大学数はH25年度には205大学(27%)であったのが H30年度には293大学(39%)に増加するなど、一定の効果をあげてきている(文科省 2020)。
FD活動の推進や教育改善につながる様々な施策で大学の教育改善を促進する努力は続けられている一方で、改善のスピードは遅々としている印象はぬぐえなかった。しかし、2020年のコロナ禍において大学キャンパスが閉鎖に追い込まれ、緊急避難的に導入したオンライン授業をほぼすべての大学人と学生が経験した。このことを契機に、大学がこのままでいいのか、コロナ禍が去ったら元の大学に戻るのか、という再考の機運が高まり、大学自体のワンラックアップを試みることへの注目が集まった(鈴木・平岡 2021)。オンラインでもできることをキャンパスに通って行う必要があるのか。対面授業でしかできないこととは何か。キャンパスに通う意味はどこにあるのか。これまでは疑問にも思わなかったことを問う機会を得たことになる。本プログラムを提供する熊本大学教授システム学研究センター(以下、本センター)でも2021年3月に「オンライン教育の新たなモデルの構築に向けた提言」を発出した。
現在の大学において機能することを目指すFDではなく、次世代の大学を創造する担い手を育てるFDが必要ではないか。これは本センターがコロナ禍以前から目指してきたことである。本センターは2006年4月に設置したいわゆるインターネット型大学院「教授システム学専攻」での教育実践とそれを支える教育工学の学術的知見を母体にして2017年に学内共同利用施設として設置された研究組織である。また、2018年度からは、文科省教育関係共同利用拠点に選定された。専攻開設以来、教育改革を推進するための研究成果を重ね、また教員研修などのプログラムを提供してきた実績が認められての選定であった。選定後の活動として、「教育改善スキル修得オンラインプログラム」の(授業デザイン編)と(自律学習支援編)を履修証明制度として開始した(鈴木ほか 2019:鈴木ほか 2020)。その経験をもとに、今回第三弾として(FD活動デザイン編)を構想し、公開することとした。
FDはこのままでいいのか。大学のワンラックアップに向けて何ができるか。次世代の大学づくりに向けて所属組織をリードしていく使命を担うFD担当教職員の皆さま、あるいは大学改革に興味をお持ちの方々と一緒に考えていきたい。
参考文献
- 文科省(2020)平成30年度大学改革状況調査: 44
- 鈴木克明・平岡斉士(2021.3)ICT を活用した授業デザイン原則の提案-交流距離理論の足場かけ総量再解釈に基づいて-(特別寄稿).名古屋高等教育研究,21,143-165
- 鈴木克明・喜多敏博・平岡斉士・長岡千香子・山下藍・張暁紅(2020.9)教育改善スキル修得オンラインプログラム第二弾「自律学習支援編」の構想.第45回教育システム情報学会全国大会(オンライン)発表論文集,51-52
- 鈴木克明・喜多敏博・平岡斉士・長岡千香子(2019.9)教育改善スキル修得オンラインプログラム(科目デザイン編)の構想と無料版・有料版の公開.第44回教育システム情報学会全国大会(静岡大学)発表論文集,425-426
- 鈴木克明(2012)大学における教育方法の改善・開発[総説].日本教育工学会論文集(特集号:大学教育の改善・FD),36(3),171-179
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