Topic outline
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教育改善を組織的に進める専門職として配置が進んできたFD担当者(Faculty Developer:ファカルティ・ディベロッパー)は、高等教育機関におけるID(Instructional Design:教育設計)専門家として十分な知識を持ち合わせている必要があるのではないか。その立場から書かれた論考(鈴木 2009)=必読文献を読んで、「IDはFDの基礎になるか?」を考えてみたい。それがこの物語の趣旨である。
FDとIDとの間には類似点が多い。たとえば、両者ともに教育活動を間接的に支える支援者であり、直接授業実施に手を出せない。大学教員を教育担当者(トレーナー)と見なせば、ToT (Trainer of Trainer)と呼ばれる立場にある。内容の専門家 (Subject Matter Expert)である大学教員との共同作業により幅広い内容領域の教育に関与することが求められる。その都度 SME からヒアリングして教育内容を素人ながらに(あるいは、素人の利点を生かして学生の立場に身を置きながら)把握する。学習者の特性と教育内容の特徴と教育環境の制約条件を考慮した最適解を提案していく。個別の科目(あるいは更に毎時間の授業)からカリキュラム、組織のレベルまで重層的に取り組むべき課題がある。これらはID専門家が大学のみならず様々な教育機関で日常的に行っている仕事を描写したものであるが、それらは、FD担当者にも求められていることではないだろうか(鈴木 2012)。
もしそうであるとすれば、FD の受講対象となる教員には「ティーチングティップス」等のノウハウ(必読文献参照)やワークシート(コラム参照)の利用を勧める一方で、FD 担当者としてはさらに自らの支援の理論的根拠を ID の知見 に求めることが有用ではないだろうか(鈴木 2012)。2008年の中教審答申において、大学職員にもIDの素養を身につけることが求められた理由がここにある。教員であろうが職員であろうが、IDの基礎を学ぶことによって、FD担当者が教員を支援する際に提案する改善策の有効性をより高めるとともに、改善策の理論的根拠を明らかにすることで説得性を高める効果が期待できる。授業実施やカリキュラム改善の支援者として、自らの教育経験に基づいて実施者(アクター)としての視点を持つことのみならず、IDの知見を背景に設計者(デザイナー)の視点(吉崎 1997)とその学問的根拠を持つことで、経験知としてのノウハウだけでなく学問的背景を説明できることが異分野の研究者を説得するために有用なツールとなる。まずはそのように主張する以下の必読文献を読んで、何に賛成できるか、何には賛成できないか、自分の立ち位置を表明して、活発に議論していただきたい。
必読文献
鈴木克明(2009.12)ファカルティ・ディベロッパーのID的基礎とは何か.日本教育工学会研究会報告集(FDの組織化・大学の組織改革/一般),JSET09-5,45-48
参考文献
鈴木克明(2012)大学における教育方法の改善・開発[総説].日本教育工学会論文集(特集号:大学教育の改善・FD),36(3),171-179
吉崎静夫(1997)デザイナーとしての教師 アクターとしての教師 (子どもの発達と教育). 金子書房,東京
★★★ コラム ★★★
日本教育工学会主催のFD研修会のデザイン
日本教育工学会が主催しているFD研修会では、2011年度以降、IDの視点から「大学授業デザインの方法 -1コマの授業からシラバスまで-」をテーマとして、「大学授業設計の点検ワークシート(記述式)」を利用した授業改善のためのワークショップを実施しています。こちらのコラムもお読みください。