日本教育工学会では、2009年度から大学教員のためのFD研修会(ワークショップ)を開催してきた(鈴木 2012)。2011年度からは、その内容を ID の視点から「大学授業デザインの方法 -1コマの授 業からシラバスまで-」をテーマに固定し、その中で「大学授業設計の点検ワークシート(記述式)」を用いてきた(根本ほか 2013)。このワークシートは授業の分析に重要とされる点検項目6つと、それらを踏まえてどのように何を継続し、何を変更したいのか改善を行うかを記述する合計8項目で構成されており、点検項目は、目標(1. 誰に何を教えようとしているか、2. それは何故か)、評価(5. 単位取得の要件は何か、6. それは科目の目標と合致しているか)、方法(3. どうやって教えているか、 4. それは何故か)のID3要素を反映させたものであった。参加者が持ち寄る授業の内容や対象学生層は異なっても、同じ項目を用いて相互点検・解釈し、改善提案を議論することができ、IDに基づく共通項を異なる事例に応用することによる研修効果が確認されている(根本・鈴木 2012)。 

 教育工学は領域を問わず、効果的・効率的・魅力的な教育方法を設計し改善を重ねていく研究領域である。したがって、このワークショップ自体も、受講者にとって効果的・効率的・魅力的な学習体験になるように設計・改善することが求められる。当初、事前・事後課題を伴う1日の対面研修として構想・設計したが(根本・鈴木 2012)、改善を重ね(根本ほか 2013)、一定の効果を得る学習機会となった(松田ほか 2014)。さらに、効率化を図るために反転授業のノウハウを導入して1日の対面研修を半日開催に短縮し、その余力でFD研修の支援者を養成するファシリテーター研修(根本ほか 2015)、並びにレポート添削者養成(根本ほか 2016、高橋ほか 2018)を体系化し、受講者を研修担当者に育てる道を用意し、また、オンライン研修が可能な形に進化してきた。この試みにおける研究成果の一部は、FD研修の紙上体験ができる書籍(松田ほか 2017)として公刊されている。


参考文献

松田岳士,根本淳子,鈴木克明(編著)(2017)日本教育工学会(監修)『大学授業改善とインストラクショナルデザイン』教育工学選書II-14.ミネルヴァ書房

高橋暁子・根本淳子・鈴木克明(2018.9)日本教育工学会FDワークショップにおける最終レポート添削ルーブリックの改訂.日本教育工学会第34回全国大会(東北大学)発表論文集,285-286

根本淳子,岩崎千晶,高橋暁子,鈴木克明(2016.9)ID に基づいた授業設計に関する FD 研修の添削と持続的運用.日本教育工学会 第32回全国大会(大阪大学)発表論文集,725-726

根本 淳子・柴田 喜幸・渡辺 雄貴・鈴木 克明(2015.9)FD 研修向けファシリテーター研修の設計と実施.日本教育工学会 第31回全国大会(電気通信大学)発表論文集,871-872

松田岳士,根本淳子,鈴木克明(2014.9)FDセミナーは大学の授業改善にどのように活かされたか 参加者に対するフィードバックの分析より.日本教育工学会 第30回全国大会(岐阜大学)発表論文集,265-266

根本淳子・高橋暁子・鈴木克明(2013.3.2)「日本教育工学会FDワークショップの改善」日本教育工学会研究報告集13-1,325-328

根本 淳子・鈴木 克明(2012.9)「FDワークワークショップ実践報告-デザイン力向上の支援を目指して-」日本教育工学会第28回全国大会(長崎大学)発表論文集967-968

鈴木克明(2012)「大学における教育方法の改善・開発[総説]」日本教育工学会論文 集、36(3)(特集号:大学教育の改善・FD):171-179

最終更新日時: 2021年 09月 9日(木曜日) 15:26