Topic outline
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このモジュールの冒頭で、わが国ではFDが2008年に義務化されたことで注目が集まったと述べた。文部科学省(2009)の調査によれば、FD の平成19年度実施率は約 90%(664 大学)であったことから、数字の上では「義務化」が功を奏して「垂直スタート」したことがうかがえる(鈴木 2012)。しかし、その中身は主として「教育方法改善のための講演会の開催」 (446 大学)がトップであり、他の内容(新任教員とそれ以外のための研修会、教員相互の授業参観、授業検討会の開催:いずれも 300大学前後)を大きく上回っていたこと、そしてその後の普及についても、それほど芳しいと言えるものではないことも紹介した。この物語では、そもそもFDの義務化がどのように始まり、これまでに何をもたらしたのかを少し深堀していきたい。成立の経緯を知ることによって、今後のFDを推進するためには何が必要か、またどこに向かっていけばよいのかの示唆が得られるのではないか、という期待があってのことである。
FDの義務化への流れ
FDの必要性について、高等教育政策の中で最初に言及されたのは、1998年に大学審議会が出した答申「21世紀の大学像と今後の改革方針について」であったとされている(川島 2009)。それを受けて各大学におけるFDの実施が努力義務化されたのはその翌年の1999年、つまり、2008年のFD義務化に至る前の10年間は「努力義務化」の期間であった。
答申の第2章1(1)2)「4.教員の教育内容・授業方法の改善」には、「各大学は、個々の教員の教育内容・方法の改善のため、全学的にあるいは学部・学科全体で、それぞれの大学等の理念・目標や教育内容・方法についての組織的な研究・研修(ファカルティ・ディベロップメント)の実施に努めるものとする旨を大学設置基準において明確にすることが必要である。」と述べられており、その背景については、「(a)カリキュラム編成,履修や単位認定の取扱い等の制度的な改革も重要であるが、真に教育の質の充実を図るためには、教員自身が教育者としての責任をこれまで以上に自覚し、自己の教授能力の向上のために不断の努力を重ね、学生の学習意欲を喚起するような授業を展開していくことが必要である。(b)大学進学率の上昇に伴い、大学に入学してくる学生の多様化が進むとともに、生涯学習機関としての大学に対する期待がこれまでになく高まっている。大学がこれらの多様な要請等にこたえ、より質の高い教育を提供していくためには、個々の教員の努力はもとより、大学あるいは学部・学科としての教育目標を明確に示し、その目標実現のための授業科目の開設及びカリキュラムの編成を行い、各教員はその趣旨に沿った授業内容・方法を決定するという一連の取組が必要である(第2章1(1)2)4.「(ア)組織的な研究・研修の実施」)」と説明されていた。つまり、大学のユニバーサル化に伴い、教育者としての教員個人の努力に依存するだけでなく、組織的な取組が必要であるとの見地からFDの努力義務化が提案されたのである。
FDの努力義務化以降、2006年の教育基本法改正では「教員が自己の使命を自覚して絶えず研究と修養に励んで職責を遂行しなければならないこと、養成と研修の充実が図られなければならないこと」が法的に規定された。それを受けて2007年の大学院設置基準の見直しと2008年の大学設置基準の見直しにより、FDが「努力義務化」ではなく「義務化」されることになる。この「努力義務化」から「義務化」への流れは、1991年の大学設置基準の大綱化(教育課程についての規制緩和)の時に「努力義務化」された自己点検・評価の仕組みの導入が、その後、2002年の学校教育法改正で、自己点検・評価の実施とその結果の公表が「義務化」され、第三者機関の評価を受けるという、いわゆる「認証評価」制度の導入に進んだ流れと同じであった。同様に、2017年には、3つの方針の策定・公表が義務化され、また、教員対象のFDだけでなく、職員対象のスタッフ・デベロップメント(SD)も義務化された。
FDの義務化がもたらしたもの
さて、文科省の施策の一環としてFDの義務化が行われた結果、何がどのように変わったのだろうか。ここでは2つの調査結果を見てみよう。
一つは、文科省が2020年10月に公表した「平成30年度大学改革状況調査」の結果である。FDだけでなく大学改革全般についての現状を全国の782大学に質問紙調査したもので、97%の回答率のデータである。FDが大学改革の原動力になっているとすれば、何にどのような影響をもたらしてきたのだろうか、44~47ページのFDについての調査結果だけでなく、様々な観点から眺めてみよう。
もう一つは、「第 3 回大学生の学習・生活実態調査:08 年→16 年の学生変化 」の結果である。2016 年 11 月から 12 月にかけて、全国の大学 1~4 年生 4,948 人を対象にベネッセが行ったもので、その結論として「アクティブ・ラーニングが増え、学生の学びは真面目に:一方で、大学に『面倒をみてほしい』学生は増加」との見出しを掲げている。4年ごとに行ってきた3回分の調査結果を比較して動向を分析しているもので、大学改革の受益者(あるいはその与件)となる学生が大学をどのように見ているのか、その視点に立ってみることも有益であろう。 さて、あなたは何を感じただろうか。
必読文献
- 文科省(2020)「平成30年度大学改革状況調査」
- ベネッセ(2017)「第 3 回大学生の学習・生活実態調査:08 年→16 年の学生変化 」
参考文献
- 川島啓二(代表)(2009)大学・短大で FD に携わる人のため の FD マップと利用ガイドライン.国立教育政策研究所
- 鈴木克明(2012)「大学における教育方法の改善・開発 [総説]」日本教育工学会論文集、36(3)(特集号:大学教育の改善・FD):171-179