コラム:科学でも工学でもないデザインとは何か
「描写と説明(科学)には、アクションを処方することはできない。予測と制御(工学)には、アクションの正統性を示すことはできない。世界中で科学と工学に多額の研究資金が投じられているが、それは両者をすり合わせるとアクションが処方できると信じられているからである。残念ながら、その処方は、もう一つ別のところから発する必要がある(Nelson & Stolterman, 2012, p.106:邦訳は鈴木・根本 2016)」。 「デザイン」は自己表現の発露を目指す「アート」とは異なり、発注者が欲していたが具体的なイメージが持てていなかった「究極のこだわり(Ultimate Particular)」を創造する営みであり、ある文脈の中に産み落とされて初めて「こういうものが欲しかったんだ」と実感できるモノを現実化する行為である.デザインの成功事例では、サービスを受ける側が自分をより深く知るという驚きが起きる。顧客が当初求めていたとおぼろげながらに思っていたものを実現するだけでなく、それを超越するモノを生み出す。顧客もデザイナーも当初は完全に想像しえなかった何かがデザイン過程で生み出されることが期待されている(an expected unexpected outcome)。欲しいと思っていたことが実現するだけでなく、それと同時に当初の期待の延長線上にあるものだがそれ以上で、自分の関心にも状況にも合致した重要な何かが付加されたと思えるものが生み出される(鈴木・根本 2016)。 デザイナーは顧客が望むものが何であるかを探り当ててひき出し、それをプロアクティブで肯定的な具体物として表現することが求められる。顧客と対話し、顧客に共感することで、顧客の「意味づくり」を手助けする。目的や方向を探り、具体的にそれを概念化し、顧客自身の理解と想像を超えながらも、顧客の願望をフルに実現するものを創造する。 「上級」とうたうからには、この関係性を構築できるID専門家を育てたいものだ、ダメなデザイナー(下図の×で示す4種類の人)を育てないようにしなければ、と刺激を受けました。 参考文献 Nelson, H. G. & Stolterman, E. (2012) The design way: Intentional change in an unpredictable world (2nd Ed.). MIT Press. 鈴木克明,根本淳子(2016.8)教育工学をデザイン研究の系譜で再定義するための萌芽的研究の着想と目標.教育システム情報学会 第41回全国大会(帝京大学)発表論文集,343-344